中学まで住んでいたマンションの思い出

およそ10年ぶりに,幼稚園から中学の頃まで住んでいたマンションに向かった.いつも遊んでいた公園からまっすぐ伸びる坂道を,遊び疲れた体で自転車を押して帰ったあの坂道を,門限に間に合うよう必死で走ったあの坂道を,母に借りた自動車で登る.

このマンションにきたのは,小学校の同級生から中古のカメラを譲って貰うためだった.坂を登り切ったところでウィンカーを出し,敷地の中に入る.駐車場の通路は,記憶よりずっと狭くて,少しだけ運転しにくかった.

奥まで進み,建物の玄関ホール前に車を止める.幼なじみについたよとLINEでメッセージを送り,エンジンを切って玄関ホールに入った.小学校の帰り道,必死で引き開けていた重いガラス扉は,いつの間にか自動ドアに変わっていた.あのころ走り回って遊んでいたホールだったけど,いまではすみに立っているだけで住民の邪魔になりそうで,なんだか知らない場所に来たように思い,少しだけ切なくなった.

そんなとき,「締め切り」と書かれた方のドアの足下に,開き戸だったころの名残を見つけ,少しだけ嬉しくなったのだった.